脳梗塞の三療 - その評価と治療法 その1

脳梗塞の三療 - その評価と治療法 その1

1.脳梗塞の概要

1.脳梗塞の分類とその特徴 = 病状把握のポイント

A.脳血栓 : 前駆症状として脳虚血発作を繰り返し、しばしば発作間における症状の回復または改善が見られる。経過は緩徐で、個々の脳症状が数分~数時間、あるいはそれ 以上かかって次第に出現、または段階的に進行する。意識障害の程度は比較的軽度。髄液は清澄。時として急速に軽快する。ワレンベルグ症候群を認める場合が ある。他臓器(特に冠状動脈、大動脈、末梢動脈)にアテローム硬化症が認められることが多く、通常、アテローム硬化症を伴う疾患(高血圧症、糖尿病など) が存在する。高齢者(多くは70歳以上)に好発する。

B.脳塞栓 : 急激なる発作の出現(数秒~2、3分ぐらい)。多くの場合、前駆症状は欠如する。意識障害は比較的軽度。随液は清澄。時に症状が急激に軽快する。局所神経 症状、あるいは特定動脈域症状が見られる。塞栓の原因は通常心疾患によるものが多い。他臓器での塞栓の既往を持つことが多い。若年者~壮年者(20歳 代~40歳代)に多発する。

2.頭梗塞の症状

(1) 運動障害 : 運動障害の大部分は脳性片麻痺で、発症直後は弛緩性麻痺であるが、次第に痙性麻痺へ移行する。運動障害の回復過程は、ブルンストローム法に従う。

(2) 知覚障害 : 出現しないものから知覚脱失に至るまでさまざま。患側の深部感覚の障害、視床部の障害による強い自発痛(視床痛)、肩手症候群による上肢痛などは、リハビリテーションの阻害因子となる。

(3) 言語障害 : 失語症と構音障害があり、コミュニケーションの阻害因子となる。

(4) 意識障害 : 多くの場合、意識障害を伴うが、程度が軽く、持続時間も短いほど予後は良好である。

(5) 失行・失認 : 責任病巣の障害により出現。リハビリテーションの阻害因子となる。

(6) 視覚障害 : 障害部位によって異なるが、視力障害、視野の異常、複視、眼振などをきたす場合があり、社会復帰の阻害因子となる。

(7) 知的・精神・心理的障害 : 問題となるのは脳血管性痴呆であるが、病的意識の欠如、絶望感からくる意欲の低下、幻覚や錯乱、情緒不安定、感情失禁、鬱症状なども問題となる。

(8) その他 : 膀胱・直腸障害、不随意運動、痙攣発作、協調運動障害

3.合併症(廃用症候群)

(1) 関節の拘縮と変形 : 筋の過緊張(痙直)や不動作性の関節固定により、麻痺側にマンウエルニッケ型の拘縮(肩関節の内転・内旋、肘関節屈曲、前腕の回内、手指屈曲、股関節の屈曲・外転・外旋、膝関節屈曲、足関節底屈・内反)を来しやすい。

(2) 骨粗鬆症

(3) 肩手症候群

(4) 褥瘡(床ずれ) : 好発部位は、背臥位では後頭隆起・肩甲骨・肘頭・仙骨部・踵部、側臥位では肩峰・大転子・膝関節外側・外果、腹臥位では上前腸骨棘・陰茎、である。

(5) 起立性低血圧

(7) その他 : 麻痺側の肩関節の亜脱臼、肩関節や股関節に見られる異所性化骨などがある。

 

2脳血管障害の評価 : 運動障害の評価にはブルンストロームの評価基準が用いられるので紹介する。

《上肢のリカバリー・ステージ》

1=随意運動なし。(弛緩期)

2=共同運動、またはその最初の要素の出現。(痙性発現期)

3=共同運動、またはその要素を随意的におこなえる。(痙性は最高)

4=基本的共同運動から離脱した運動が可能。(痙性がやや弱まる)。

*手を腰の後ろへ回す。

*腕を前方水平位へ(肘関節伸展位で肩関節 90 ゜屈曲位へ)

*前腕の回外・回内(肘関節 90 ゜屈曲位で)

5=基本的共同運動から独立した運動が可能。(痙性は減少)

*腕を横水平位へ(肘関節伸展位で肩 90 ゜外転位)

*腕を頭上まで挙上(肘関節伸展位で肩関節を 180 ゜屈曲位へ)

*前腕の回外・回内(肘関節伸展位で)

6=分離運動が自由に可能。共同運動にも問題はない。(痙性は最少になる)

《体幹、および下肢のリカバリー・ステージ》

1=随意運動なし。(弛緩期)

2=共同運動、またはその最初の要素の出現。(痙性発現期)

3=共同運動、またはその要素を随意的におこなえる。(痙性は最高)

*基本的共同運動パターンに以下の事項を加える。

(1) 坐位で股・膝関節屈曲、足関節背屈。

(2) 立位で股・膝関節屈曲、足関節背屈。

4=基本的共同運動から離脱した運動が可能。(痙性はやや弱まる)

*坐位で下肢を床上に滑らせながら、膝屈曲 90 ゜以上。

*坐位で踵を床に着けたまま足関節のみ背屈する。

*坐位で膝関節の屈曲・伸展(わずかな動き)

*立位で膝関節の屈曲・伸展(わずかな動き)

5=基本的共同運動から独立した運動が可能。(痙性は減少)。

*立位で股伸展位での膝屈曲

*立位で膝関節を伸展したまま足関節のみ背屈

6=分離運動が自由におこなえる。共同運動にも問題はない。(痙性は最少となる)

*立位で膝伸展位のまま股関節を外転

*立位での下腿の内旋・外旋(ハムストリングの交互収縮により)

《手指のリカバリー・ステージ=上肢のスリカバリー・ステージ4以上に対応する》

1=弛緩性

2=指のくっきょくが随意的にわずかに可能、またはほとんど不可能な状態。

3=指の集団屈曲が可能。鈎形にぎりをするが、離すことは不可能。指の伸展は随意的にはできないが、反射による伸展は可能。

4=横つまみが可能で、母指の動きにより離すことも可能。指の伸展はなかば随意的に、わずかに可能。

5=対向(対立)つまみが可能。円筒にぎり、球にぎりなどが可能(ぎこちないが、ある程度は実用性がある)。指の集団伸展が可能(その範囲はまちまちである)。

6=すべてのつまみ方が可能となり、上手にできる。随意的な指の伸展が全可動域にわたって可能。指の分離運動も可能であるが、健側よりはやや劣る。

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2009年5月24日|

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