脳梗塞の三療 - その評価と治療法 その2

脳梗塞の三療 - その評価と治療法 その2

4.脳卒中急性期の対応(リハビリテーションプログラム)

1.急性期のリハビリテーションでの留意事項

*急性期とは、発症後3~4週間ぐらいまでの期間で、一部は中間期と重なる。

*全身状態の管理と合併症の予防が重要な時期である。

*発症後3日目までは、特に再発しやすい時期なので注意が必要である。

*視力や視野の異常、言語障害・失認・失行のチェックなども実施される。

(1) 体位変換 : 褥瘡の予防を目的として、2~4時間(通常は2、3時間)毎に1回実施する。

(2) 良肢位保持 : 関節拘縮や変形のの予防を目的として体位変換にあわせて実施する。

 

《脳卒中患者の良肢位保持の実際》

[背臥位]

A マットレスは固めのものとする(柔らかすぎると股関節の屈曲拘縮を誘発する)。

B 枕はあまり高くないものを用いる。

C 両肩、両骨盤を水平に保つ。

D 肩の下にマット(枕・砂のう・タオルなどで良い)を入れて、肩甲帯を前に出す。

E 肘、両腕の下にマットを入れて、少し高い所に手をのせておく。

F 手関節は背屈位、手指は軽度屈曲位に保持する。

G 股関節は内旋・外旋中間位に保持する。

H 膝関節は軽度屈曲位に保持する(屈曲パターンの強い時は伸展位とする)。

I 足関節は背屈底屈0゜とする。

[腹臥位]

A 腹部に薄いマット(枕、タオルを折りたたんだものでも良い)を入れる。

B 顔面は患側に向ける。

C 上肢は頭上にあげ、手指は軽度屈曲位とする。

D 下腿の下にマット(枕でも良い)を入れて、膝関節を屈曲位に、足関節を背屈位に保持する。

[側臥位]

A 通常、患側を上にする。

※患側を下にした側臥位も、1日のうちに数回(1回につき 15 分間程度)とらせる。

B 上肢の下にマット(枕でも良い)を入れ、さらに胸の前に抱き枕(クッションや毛布でも良い)を置いてそれを抱えるようにさせる(肩甲帯を前に出す)。

C 下肢は、両膝の間にマット(枕でも良い)を入れ、股関節の内転を防止する。

D 足関節は自然肢位とする。

* (1) と (2) については、発症当日から実施される。

 

(3) 他動的関節可動域訓練 : 関節可動域の維持・増大、筋の制止時の長さの維持をはじめとする他動運動の効果を挙げることが目的となる。

※全身の各関節の各運動方向について、5~ 10 回ずつ他動的に動かすことを1セットとし、1日に最低2回(午前と午後)実施する。

※この訓練の開始時期は、病状に特に問題がなければ、脳梗塞の場合には発症の翌日から3日後、脳出血の場合には発症の3日~1週間後である。

5.脳卒中回復期のリハビリテーション

1.中間期のリハビリテーションでの留意事項

*早くても発症後2週間目以降の時期に相当し、一部は急性期と重なる。また、基本的に訓練室での訓練が始まるまでの時期をさしている。

*基本的には、病室で行なわれる訓練をさしている。

*この時期の訓練は一部が急性期に、残りは回復期に含めて考えられる場合がある。

(1) ベッド上での坐位保持訓練 : ギャヂ・ベッドやバック・レストなどを使用して行なう。

※目的は、循環動態(特に起立性低血圧症の克服)の改善である。

※発症から1~3週間後までには訓練を開始する。

※ 30 ° で5分から開始し、1週間ぐらいの時間をかけて 80 ° で 30 分間保持できれば終了となる。

 

※肩関節の亜脱臼を助長するので、三角巾などによる固定が必要である。

(2) ベッド上での体位変換訓練 : ベッド上で寝返りや起き上がりの訓練を実施する。

(3) 健側肢を用いた自動介助運動訓練

(4) ベッド上での日常生活動作(ADL)訓練

ア)ベッド上での食事・更衣・整容動作訓練

イ)ベッドから車椅子への移乗動作訓練

ウ)ベッドへの昇り降り訓練

エ)排泄動作訓練=可能であれば、ポータブルトイレを使用。

*日常生活動作(ADL)訓練は、安定期以後も続けられる。

*この時期以降、ベッドから離れて病室内での動きが増えるので、転倒事故などに十分注意する。

 

2.安定期のリハビリテーションでの留意事項

*基本的には、訓練室で行われる訓練である。

(1) マット上での体位変換訓練(起居動作、寝返り、坐位保持とバランスいざり、四つ這い位、膝立ち位など)

(2) 起立訓練と立位バランス訓練

(3) 歩行訓練(平行棒内歩行訓練、杖歩行訓練、応用歩行訓練)

(4) 神経生理学的アプローチを応用した運動療法

*ブルンストローム法、ボバース法、PNF(神経筋促通法)などに基づいた運動療法が実施される。

(5) 日常生活動作(ADL)訓練(利き手交換訓練などを含む)

*作業療法、職能訓練、職場適応訓練を経て社会へ復帰する。

6.脳卒中のリスク管理

[リハビリテーション実施上の注意事項]

(1) 基礎疾患として、高血圧症、心疾患、糖尿病などを有する場合が多いので、常にバイタルサインをチェックすること。(「アンダーソン・土肥の基準」を参照)

*必要な場合には、心電図を装着して訓練をおこなう。

(2) 脳血管障害は運動障害のみならず、知覚障害、意識障害など種々の障害を有している場合も多いので、誤嚥による窒息や肺炎、尿路感染症などを起こさないよう注意すること。

(3) 暴力的なROM訓練や伸張運動法の実施は、局所の痛みや異所性化骨の原因となったり、骨折を引き起こすことがあるので愛護的におこなうこと。

(4) 座位保持訓練や起立訓練を開始するときには、急激な血圧低下(起立性低血圧)を起こすことがあるので、血圧などをチェックしながら徐々におこなうこと。

(5) 座位や立位での訓練や活動に際しては、重力により、患側の肩関節の亜脱臼を引き起こすことがあり、痛みや肩手症候群の原因ともなるので、三角巾や装具などを用いて固定すること。

(6) 立位での訓練や活動に際しては、患側下肢の膝折れによる転倒事故が発生しやすいので、特に注意すること。

[アンダーソン・土肥の基準(一部改変)]

(1) 訓練をおこなわない方が良い場合

*安静時脈拍 120 /分以上

*安静時血圧収縮期 200mmHg 以上、または拡張期 120mmHg 以上

*労作性狭心症、または1カ月以内の心筋梗塞

*明らかな心不全や著しい不整脈

*訓練前にすでに動悸や息切れのあるもの

(2) 途中で訓練を中止する場合

*脈拍 140 /分を越えた場合

*血圧収縮期 40mmHg 、拡張期 20mmHg 以上の上昇

*1分間 10 以上の期外収縮や頻脈性不整脈あるいは所脈

*中等度の呼吸困難、めまい、嘔吐、狭心痛の出現

(3) 訓練を一時中止し、回復を待って再会する場合

*脈拍運動前の 30 %、または 120 /分を越えた場合(ただし、2分間の安静で 10 %以下にならなければ、訓練を中止するか、負荷を軽くする。)

*1分間 10 以下の期外収縮の出現

*軽い動悸や息切れの出現

7.脳梗塞の鍼灸治療

1.足関節の固定力アップのためのパルス鍼療法

○適応 : 脳血管障害安定期以降の歩行が可能となった患者で、特に足関節の固定力が不十分なために歩行の安定性が確保しにくい場合に実施する。

○刺鍼部位と刺鍼方向 : 足三里(脛骨祖面と腓骨頭の直下を結んだ線上の中点=1筋前方に取って陽陵泉穴に向けて後方斜刺する)と陽陵泉(腓骨頭の直下で長腓骨筋腱の起始部=1㎝ほど下方に取り、腓骨頭に向けて腱を透刺する)

○通電方法 : 足三里穴を+(緑色)、陽陵泉穴を-(黄色)とし、3 Hz で5~ 10 分間通電する。

○留意事項 : 刺激は感じるものの苦痛を全く伴わない程度の刺激量で、足関節に十分な背屈運動が起こるように実施すること。

 

2.病態に応じた鍼灸治療=中医弁証に基づく治療

[病態概論]

○中医学において脳卒中は「中風」といい、正気不足、飲食不節、情志失調、気距邪中などにが複雑にからむことにより生ずるが、虚(陰虚、気虚)、火(肝火、心火)、風(肝風、外風)、痰(風痰、痰湿)、気(気逆)、血(血 ? )の6つの病因にまとめられる。

○臨床において「中風」は、病状の程度や緩急、病位の深さの違いによって証分類され、軽症のものでは病が血脈や経絡に限定しており(中経絡)、重症のものでは病が関係ある臓腑にまでおよんでいる(中臓腑)。

○脳梗塞については、多くの場合、軽症のものは中経絡として、重症のものは中臓腑の中の脱証が当てはまるものと考えられる。

 

[証分類]

(1) 中経絡

○主要症状 : 肌膚不仁、手足麻木、または突然の口眼歪斜、言語不利、または半身不随

○随伴症状 : 頭痛、眩暈、筋脈がピクピク動く。顔面紅潮、目赤、口渇、咽乾、煩躁などを伴う。

○舌象・脈象 : 舌苔は薄白。脈状は弦滑。

(2) 中臓腑・脱証

○主症状 : 突然の昏睡、意識障害

○随伴症状 : 目を閉じ口を開いている、いびき、呼吸衰弱、手はだらんと開き、汗が多い、四肢不温、二便が漏れる(便・尿の失禁)。

○舌象・脈象 : 脈象は細弱、または微欲絶、または浮大無根。

 

[類に基づく治療法]

(1) 中経絡・半身不随

○治則 : 疎通経絡、調和気血

○処方 : 上肢=肩 ? 、曲池、手三里、外関、合谷

下肢=環跳、陽陵泉、足三里、解谿、崑崙

○ 方解 : 陽は「動」を主っているので、運動障害は病が陽にあるということになる。故に手足の三陽経の経穴を主に取穴する。陽明経は多気多血の経であり、陽明経の気 血の巡りがよくなれば、正気の回復や機能の回復を助けることなるため、経絡の疎通、気血の調和を図る目的で処方されている。

○操作 : 初期には患側に単刺し、慢性には両側に刺鍼し灸を施す。環跳を除く各穴に 0.5 ~ 1 寸直刺し、初期には瀉法、慢性期には補法を施す。環跳には 2 ~ 2.5 寸直刺する。置鍼は 20 分間とする。

(2) 中経絡・口眼歪斜(顔面麻痺)

○治則 : 疎通経絡、調和気血

○処方 : 地倉、狭車、合谷、内庭、太衝

○方解 : 手足の陽明経脈と足の厥陰肝経脈は頭顔面部に走行しているので、局所取穴として地倉、狭車にて局部の経気の調節を行い、合谷、内庭、太衝にて本経の経気を調節する。

○操作 : 初期には患側に単刺し、慢性には両側に刺鍼する。地倉と狭車は透鍼し、他の治療穴は 0.5 ~1寸直刺し、 20 分間置鍼する。初期には瀉法を、慢性期には補法を施す。

(3) 中臓腑・脱証

○治則 : 回陽固脱

○処方 : 関元、神闕

○方解 : 関元は任脈と足の三陰経との交会穴であり、三焦の元気が集まることろでもあり、真陽である命門とも連絡している。関元には施灸して回陽固脱を図る。

○操作 : 多壮灸を施す。神闕には塩灸を施す。

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2009年5月24日|

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