自律神経失調症の診断と治療Ⅱ - 治療編

自律神経失調症の診断と治療Ⅱ - 治療編

1.自律神経失調症の概要 = 復習として

○概念 : 自律神経失調症とは、多彩な自律神経系症状を呈し、かつ、気質的病変のない病態であるり、心身症と連続した概念としてとらえられる事が多いため、心理的要素が強い場合を心身症、身体的要素の強い場合を自律神経失調症として、不定愁訴症候群を分類している。

○要因 : 自律神経失調症の発症には、内部環境要因と外部環境要因が関係しているが、前者には、遺伝、体質、性周期、分娩、手術、心理的葛藤などがあり、後者には、家庭、学校、職場、気候風土などがある。

○症状 : 以下のような多様な不定愁訴が現れるが、その内容は個人によりかなり異なる。

(1) 全身的な愁訴 : 全身倦怠感、易疲労感、盗汗などの異常発汗、微熱や不定な発熱など。

(2) 神経筋系の愁訴 : 頭痛・頭重、めまい、耳鳴り・難聴、不眠、肩こり、腰痛、下肢痛や下肢の倦怠感など。

(3) 循環器系の愁訴 : 動悸・呼吸困難感(息切れ)、浮腫、胸内苦悶感、のぼせ感、四肢の厥冷など。

(4) 消化器系の愁訴 : 食欲不振、吐き気や嘔吐、腹痛、腹部膨満感、便秘、下痢、消化不良など。

○診察時の要点 : 以下の点に留意する。

(1) 気質的疾患・神経症の存在を除外すること。

(2) 面談の際には、内部的・外部的環境因子の発見に努める。

(3) CMI健康調査(阿部変法を含む)など、各種の質問紙法を有効に活用して、不定愁訴症候群のタイプや愁訴内容の把握に努める。

(4) ベッドサイドでも簡便にできる各種の自律神経機能検査を活用して、自律神経機能の客観的把握に努める。

○現代医学的治療の要点 : 基本的には自律神経安定剤が用いられる。心身症的色彩の強い症例に対しては精神安定剤も加えられる。その他、状況に応じて簡易な精神療法、行動療法、自律訓練法、催眠療法などが行われる。

2.病態分析と治療法Ⅰ - 現代医学的な治療

○現代医学的治療の基本方針 : 現代医学において、自律神経系そのものを適切に調整する方法が確立されているわけではないため、現れる症状を中心にしながら患者の苦痛を軽減させることを 主眼としながら、自律神経系を含めた心身の調整を図るという目的に資する治療法が導入されている、

 ○現代医学的治療の概要 :

  ①薬物療法 : 基本的には自律神経安定剤が用いられる。心身症的色彩の強い症例に対しては、精神安定剤や催眠作用をもつ薬剤・抗うつ剤などの抗神経系薬剤が加えられる。

  ②その他の治療法 : 患者が持っている精神的素因(鬱傾向や神経症的傾向、性格特性など)や精神的環境(職場環境や対人関係など)を考慮して、カウンセリングなどの簡易な精神療法、行動療法、自律訓練療法、催眠療法などが実施される。

3.病態分析と治療法Ⅱ - 中医学的なとらえ方

(1) 冷え・のぼせ症状に対する治療

 ○病因 : 先天的に腎精が不足している、久病(慢性の病気)で腎精を損耗している、房事過多(過剰な性行為)や産後の不養生などによって腎気不足になると、陰陽水火の関係が

 

失調して心腎不交となり、陰は下で盛んになり、陽は上に亢進して本性を発する。

 ○主症状 : 自覚的な腰や下肢の冷感、頭部顔面部や上半身の のぼせ、ほてり。

 ○随伴症 : 顔面紅潮、頭暈(頭がクラクラする)、目眩(目がかすんで頭暈が起こる)、目赤(目の充血)、咽喉の渇きや疼痛、歯が浮いて痛む、口は乾燥するが口渇はない、 両足の冷え、腰のだるさ・疼痛、寒がり、小便清長または下痢、水様の帯下、など。

 ○舌象 : 舌質は軟嫩、または舌尖紅、舌苔少。

 ○脈象 : 脈状は細弱・微、または細で無力。

 ○治療原則 : 心腎交通、引火帰原

 ○配穴 : 大椎、長強、関元、神門、内関、百会、腎兪、太谿、三陰交。

  ○処方解析 : 督脈に属する大椎、長強は腎を強めて元気を補う作用があり、腎気が充足してくると陰陽はおのずと調整される。関元、腎兪、太谿、三陰交に配することによっ て、補腎強腰をはかって虚火を降ろす。百会を配して気を上昇させる作用と降逆潜陽の作用を発揮させる。神門、内関によって清心安神をはかる。

  ○治法 : 大椎は1寸上方斜刺し、長強はよく消毒した鍼で 1.5 寸上方に向けて横刺して前陰部に得気を行かせる。関元、三陰交、太谿は1寸、腎兪は 1.5 寸、神門は 0.5 寸、内関は1寸直刺する。百会は後方に向かって1寸横刺する。補法にて弱刺激を与えて、 30 分間以上置鍼する。長強以外には灸頭鍼、または単刺に灸法を併用してもよい。

 

(2) 冷え症状に対する治療

  ○概要 : 冷え症は、下焦が陽虚となり、そのために寒湿が下に阻滞して起こる病証である。下肢および腰部の冷えの他に生殖器系統の症状を伴いやすく、女性に多く見ら れるという特徴がある。血液の運行、津液の輸布は陽気の温煦機能と推動機能に依存しているが、下焦が陽虚となり、寒湿が阻滞すると、血液の運行に支障を来 して本証が起こる。

 ○病因 : 平素から陽虚の者が寒湿や風寒の邪を受けたり、月経期や産後に寒邪を受け、気血が凝滞して下焦の陰絡の絡脈が通じなくなったり、帯脈が温煦されなくなると冷え症が起こる。

 ○主症状 : 腰部、下肢、小腹部の冷感。

 ○随伴症状 : 小腹部痛、腰痛、月経不順、痛経(月経痛)、 閉経。

 ○舌象 : 舌質は暗または ? 点がある、舌苔は白滑。

 ○脈象 : 脈状は沈弦 または緊。

 ○治療方針 : 温陽通絡、和血化 ? 。

 ○配穴 : 至陽、膈兪、八 ? 、腎兪、血海、気海、 ? 中、関元、 陽陵泉。

  ○処方解析 : 至陽には陽気を巡らす作用があり、 ? 中、気海を配穴して全身の気を通調する。膈兪、血海にて和血化 ? を図る。関元、腎兪にて補腎強陽を図る。八 ? は局所の ? 滞( ? 血の阻滞)を疎通させる効果がある。陽陵泉は気機を疏通させて肝気の調節を図る。

 ○操作(鍼法・灸法) : 至陽は1寸直刺し、膈兪は横突起に向け 1 ~ 1.5 寸斜刺する。関元、気海は1寸下方斜刺する。八 ? は1寸程度直刺する。いずれも平補平瀉法を施すか、灸頭鍼、または灸法を施す。

 

(3) めまい・耳鳴りに対する治療 - 肝陽亢進による眩暈

 ○病因 : 情志の失調や強いストレスによって肝を損傷すると、肝陰が不足して肝陽が亢進し、眩暈が起こる。また、房事過多や老化などによって腎陰が不足すると、腎陰が肝陰を滋養できなくなり、次第に肝陰不足に陥って肝陽が亢進し眩暈が起こる。=陰虚陽亢

 ○主症 : 眩暈、耳鳴り、脹ったような頭痛、怒ると症状が増悪する。

 ○随伴症 : いらいらして怒りっぽい、不眠(浅眠傾向が強い)多夢、口苦、顔面紅潮=以上、肝気鬱結がある場合。顔面紅潮、五心煩熱、盗汗、腰や膝がだるくで力が入らない、遺精=肝腎陰虚がある場合。

 ○舌象 : 舌質紅、舌苔少または無苔。

 ○脈象 : 脈状は弦細数。

 ○治則 : 滋水涵木、平肝潜陽。

 ○配穴 : 風池、侠谿、陽輔、太衝、肝兪、腎兪、太谿。

 ○処方解析 : 風池、侠谿、陽輔は上亢した肝陽を清瀉し、下降させるために用いる。太衝を配して「標」による平肝潜陽を促進し、肝兪、腎兪、太谿はその「本」を治す目的で用いる。(従って、本証の場合は基本的に補う。)

 ○操作 ; 風池、侠谿、陽輔は 0.5 ~ 1 寸直刺して瀉法を施す。肝兪、腎兪は 0.5 ~ 1 寸直刺、太谿、太衝は 0.5 寸直刺して補法を施して、 15 分間置鍼または間歇運鍼する。

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2009年5月24日|

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