頻尿に対する治療

頻尿に対する治療

1.頻尿について

頻尿を来す病態は非常に多い。排尿量の増加を来す病態-腎不全初期や、膀胱内の炎症や刺激、前立腺の異常、尿崩症など-はいずれも頻尿を伴うし、寒冷刺激 や水分の摂取過剰などによって一過性に起こる場合もある。さらに、高齢者の場合のように、何ら病因もなしに夜間頻尿が見られるものがあり、昼間にも尿意頻 数や場面尿失禁(急激な感情の変化やくしゃみなどに際して下着が湿る程度の軽い尿失禁をきたすもの)などが起こり、加えて、眩暈、耳鳴、難聴、腰や膝のだ るさをきたすものがある。

今回は特に、このような病態についての対処方法について考察する。

2.病態の分析:中医学における頻尿を伴う病機の概要

*今回は、加齢に伴うもののみを紹介する。

(1) 腎陽虚証

○病因 : 腎陽が虚衰する状態である。腎は一身の陽気を主るので、加齢に伴って命門の火が衰退すると腎陽が衰微して一身の陽気がすべて虚衰し、本証に陥る。

 

○主症状 : 寒がり、陽萎・早泄(勃起が不十分で性交の際すぐに射精してしまう)、尿量の増加(特に夜間に排尿頻数となる)、遺尿(意志に反する軽い尿失禁)、腰や膝の無力感とだるさや痛み(冷えると増悪)。

○随伴症状 : 顔色蒼白、頭暈(浮動感のような眩暈)、四肢の冷え、耳鳴り・難聴。

○舌象・脈象 : 舌質は淡、舌苔は少または薄白。脈状は沈・細・微・弱。

○治則 : 温補腎陽、精気固摂。

○配穴 : 太谿、中極、関元、腎兪、命門、復溜。

○治法(鍼法・灸法) : 鍼は各穴共に 0.2 ~ 0.5 寸直刺し補法で置鍼、または灸頭鍼を施す。灸法は各穴に対し米粒大で 3 ~ 5 荘補法で施灸し、 1 クールは 7 ~ 10 日。

*この治療法はすべて、病証に対する本治法であって、現れる個々の症状に対する標治法はそれぞれに応じて加味されるものであることを承知頂きたい。

*上に挙げた治療法のうち、鍼法は円皮鍼( 0.6 ㎜位の短いもの)を留置するのも効果的である。

 

(2) 膀胱虚寒証

○病因 : 膀胱の気化(体内の水液を調節して小便として排出する機能)作用が加齢や久病(慢性的な病機)によって失調したり、寒邪の影響を受けたために水液を固摂する機能が衰退して起こる。多くは腎陽虚が関係している。

○主症状 : 遺尿・頻尿(尿色は薄く、尿量が多いために頻繁にトイレに行く)、精神疲労を来しやすい、

 

○随伴症状 : 顔色蒼白、小腹部の冷え感、膀胱経の経路上に見られる筋緊張や痛み、症状は喜温喜按。

○舌象・脈象 : 舌質は淡で潤いがある、脈状は細・弱。

○治則 : 温暖下元、益気散寒。

○配穴 : 中極、命門、膀胱兪、腎兪、委中、束骨、二間。

○治法(鍼法・灸法) : 腎陽虚証の場合と同様の方法で治療する。

*印についても、腎陽虚証の場合と同様である。

 

(3) 膀胱経脈の風寒湿による経気阻滞

○病因 : 膀胱虚寒証を持つ患者の膀胱経脈内に風寒湿の外邪が侵襲し、経気の阻滞を来すもの。

○主症状 : 項部から足背外側部に至る膀胱経の経路上の筋緊張や疼痛、後頭部痛、足の小指の運動障害。

○随伴症状 : 顔面部特に前額部の浮腫、尿意頻数(尿意が頻繁に起こるわりに排尿量が少ない)、遺尿、多飲。

○舌象・脈象 : 舌苔は白 膩。脈状は沈・遅・緊。

○治則 : 疏 通経絡、温経散寒。

○配穴 : 至陰、束骨、委中、復溜、陽陵泉。

○治法(鍼法・灸法) : 鍼は各穴共に 0.5 ~ 1 寸刺入し、瀉法を施す。灸頭鍼または多荘灸(米粒大~麦粒大で 10 荘以上)を施しても良い。

*本証は頸椎症患者に多く認められるケースで、同時に督脈との交通障害が共に発生している。

3.治療の実際

(1) エレキバンによる経気疎通療法

①腎経の経気疎通1(補法)=太谿(+)、陰谷(-)。

②腎経の経気疎通2(瀉法)=太谿(-)、陰谷(+)。

③膀胱経の経気疎通=膏肓(+)、飛陽(-)。

④督脈・膀胱経の交通促進=右崑崙(+)と右申脈(-)、左崑崙(-)と左申脈(+)。

(2) パイオネックスによる本治法 : 補穴に対しては黄色のパイオネックス( 0.6 ㎜)を、瀉穴に対しては青色のパイオネックス( 1.2 ㎜)を貼付する。

(3) 膀胱の気化機能を調節するためのパルス療法

○適応 : 頻尿を含めて様々な排尿障害や放尿時の疼痛・違和感などに対して応用できる治療法である。

*特に、前立腺炎や前立腺肥大症、膀胱炎などの治療に著効が期待できる。

○配穴 : 三陰交(緑色の端子)、関元(黄色の端子)で両側の三陰交に対して関元を対応させる。

○通電法 : 1.2 ~ 1.5Hz (心拍数の早さ)で、 15 ~ 20 分間、痛みを感じる直前の強さで通電する。

(4) 鍼法・灸法を用いた本治療法 : [病態の分析]で紹介したそれぞれの病態に対する鍼法・灸法。

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2009年5月24日|

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